松江堂薬局の漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

落語 天災 言葉で説得する療法(こころと漢方)

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黄帝様の疑問について、岐伯がお答えいたします。
 

 気の荒い八五郎は今日も母親を蹴飛ばし、挙句の果てに隠居の家に離縁状を母親に出すから代筆をしてくれと頼みに来る。呆れた隠居は心学の先生、紅羅坊名丸(べにらぼうなまる)先生のところへ話を聞きに行って精神修行をしてこいと紹介状を持たせる。
 紅)小僧さんが表で撒き水をしている。その水があなたの裾にかかる。その時あなたはどうなさる?
 八)小僧を張り倒しちゃう。そこの家ねじ込むよ。てめぇんとこじゃこんな場違いの小僧飼っときゃがるからなぁ・・・
 紅)では次は路地のようなところをお歩きになる。強い風が吹いて屋根から瓦が落ちてきてあなたのつむじに当たる。さすればあなた は痛かろう。
 八)そりゃ瓦があたれば痛てえよ
 紅)痛いと言って相手は瓦だ。瓦と喧嘩をなさるか?
 八)瓦のかけら片手にその家にねじ込むよ。テメェんとこじゃ職人の手間おしむからこういうことになるんだ。この頭の傷はどうして くれるんだと言って膏薬代もらってやらぁ。
 紅)二里も三里もあるような大きな原のところにあなたがさしかかる。そこに夏の夕立であなたはずぶ濡れ。最前は少しばかりの水で 裾が濡れて小僧を殴るとおっしゃったが、今度は全身濡れ鼠。江戸っ子でお職人で威勢がよい。そう濡れではあなたは黙ってはいまい
 八)当たり前でぇ。クルッと尻まくって、タンタンタンとそこのおめぇ・・・?
 紅)こんどはどこへ行って怒鳴る?誰と相手だって喧嘩をなさる?江戸っ子でお職人で威勢がよい。どうなさる?
 八)しょうがない。天から降った雨だと思って諦めるよ。
 紅)天から降った雨だと思って諦められるか?
 八)これ以上られようがねぇじゃねえか。
 紅)雨で濡れて諦められるなら最前小僧にかけられた水これも雨で濡れたのだとあきらめてごらんなさい。人に殴られた傷、これも屋 根から瓦が飛んできてつむじにあたったのだと諦めてごらんなさい。おのれがここを通った身の不運だとあきらめてごらんなさい。な にごとも大きく考えてみるのだな。仏説で言う因縁または運命。私達の方では天が自分の身に及ぼした災い、心学ではこれを天災と申 します。なにごとも天災だと思えば人と諍いをすることはなくなる・・・。
 わかったのかわからないのか、ともかく八五郎、すっかり心服して、なるほど天がすると思えば腹も立たない、天災だ天災だと、すっかり人間が丸くなって帰る。

 カウンセリングの療法にクライアント中心療法というのがあります。クライアントを否定するのではなく寄り添いながらクライアントの心の内省化を促していく療法です。紅羅坊名丸先生はその療法に近い気がします。
中医心理学の療法の中にも言葉により説得、解釈、励まし、慰め、保証などの方法で病人の精神、肉体の状況を変化させる「勧説開導」療法があります。
 《黄帝内経霊枢・師伝》の中で岐伯はこのようなことを言っています。
①之に告ぐるに其の敗れを以てす=病気の危害を指し病気に対して正しい認識と態度を取るように説得する。
②之に語るに其の善を以てす=病人が積極的に医師に協力すれば健康を回復して病気に打ち勝つ気持ちが増強できる。
③之を導くにその便なる所を以てす=いかに養生すべきかを病人に話して治療の具体的措置を示す
④之を聞くに其の苦しむ所を以てす=病人の消極的な心理状態を取り除き不必要な考えを捨て去り心の苦悶、焦り、緊張を克服する。
 楚の国の皇子が病気になったとき、医師は皇子の病状を繊細に聞いた後、皇子に音楽、飲食、車馬、観光旅行、猟、風情、論道について語り、腐敗した生活の弊害について説きました。皇子は啓発し考えや生活態度、趣味を改め病気は完治しました。《七発》
 現代では医師、薬剤師、栄養士はインフォームドコンセント、服薬指導、栄養指導が
なかなかうまくいかないで頭を悩ましています。昔は「お医者様のいうことは絶対」でしたが、今はなかなかうまくいかなくなってきました。色々な情報が垂れ流しに近い形で溢れているからでしょうか? 患者さんに信じてもらうのは大変です。まえブログに書いた「祝由療法」は神霊という権威を使い患者さんを信頼させた「勧説開導」療法とも言えます。

 さて、「災難」の落ちですが
 長屋に帰ってみると、熊五郎が前の女房と大喧嘩してようやく落ち着いたところ。おかみさんの止めるのも聞かずに天災を使いたくて八五郎熊五郎の家に行ってしまう。
 八)前のカミさんが暴れこんできたとおもっちゃいけねぇ。天が暴れこんできたとかんがえねぇ。これすなはち天災だ!
 熊)いいや、うちのは先妻だ。

お後がよろしいようで・・・。

柳家小さん 天 災