松江堂薬局の漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

落語「疝気の虫」から漢方薬の温性、涼性を説明する

 神農本草経の収載薬物の種類は365種。4000~5000年前の神様、神農の名前が付いていますが、後漢から三国の時代にできた中国最古の薬物書です。伝説では神農様が草を舐めてその薬効を分類していったということです。時々毒草に中って倒れますがお茶の葉を舐めると生きかえったという話です。神農さんは薬祖神として東京では湯島聖堂、大阪道修町では少彦名神社にお祀りされています。
 神農本草経では薬を上品、中品、下品に分類しています。上品(120種)は養生で用いる薬物で身体を軽くし元気を増す。長期間服用して良い。中品(120種)は体力を養う滋養強壮薬。使い方では毒にもなるので注意する。下品(125種)は治療薬。長期には用いない。ということです。しかし水銀について「長く服用すると神仙となり不死になる」と書いてあるのは当時の神仙思想の影響でしょう。古典には当時の科学の限界があります。鵜呑みにせず科学的に評価をしなければなりません。
僕が注目するのは神農本草経の「四気」という考え方です。薬物を温・熱・涼・寒に分類しています。熱のある症状には寒涼性の薬物、寒のある症状には温熱性の薬物を使って治療するのが原則です。同じ胃痛でも灼熱痛、チリチリ痛いときには温性の、冷えてキリキリ痛いときは寒涼性の薬物を使います。大正漢方胃腸薬は安中散という胃を温める薬ですので宴会で生ビールを飲みすぎて胃が冷えて痛いのには良いでしょう。でも胃炎で胃がチリチリ焼けるように痛むときには熱の病気に温性薬を使うのですから逆効果、悪化します。
 今は漢方薬を知らない医者でも薬剤師でも漢方薬を扱えますし、また一般人がネットで簡単に入手できる時代です。彼らが選択する拠り所は効能効果に書いてある症状だけで温性涼性は気に留めません。服用して副作用がでてくる場合もあるでしょうね。それを漢方薬のせいにされてはたまらないというのが僕の気持ちです。
 薬物だけではなく食べ物にも温性、涼性はあります。夏に食べるスイカは涼性、冬に食べる蜜柑は温性ですね。薬膳やられている方は詳しいですね。また「五味」、辛、甘、酸、苦、鹹という味にも作用があります。

 落語の疝気の虫は江戸時代、腹痛をすべて疝気と言い、虫のせいだと考えていました。胃炎でも腹痛でも下痢でも、寄生虫でも疝気の虫のせいです。この落語では夢に疝気の虫が出てきて、好物は蕎麦だと話します。蕎麦を食べると元気が出てきてお腹の中の筋を引っ張って踊りだしてしまうのです。そうすると人間はお腹が痛くなるのだそうです。四気で考えると蕎麦は寒涼性の食べ物です。ですから食べると胃が冷えて痛くなるのですね。そして疝気の虫の敵役は「唐辛子」です。唐辛子は温熱性ですので涼性の症状を緩和することができます。特に辛味は邪気を発散させることができる味なのです。

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蕎麦は身体を冷やします。唐辛子やネギなど温性の薬味を入れて食べてね。

 落語でも四気五味理論が反映しているなんて驚きです。

 
古今亭志ん生(五代目) 疝気の虫*