松江堂薬局の漢方でなんとかしたい!

中医学講師30年。漢方や中華圏の文化とか書きます。

落語「死神」から説明する中医学的「死」という現象

 落語の死神では人の寿命はその人の持っているロウソクの状態でわかるということです。
ロウソクが大きくて炎に勢いがあれば元気ですが短くなっていて炎がゆらゆら揺れて今にも火が消えそうならそろそろ臨終です。

 中医学では生命のエネルギー源を「精」と言います。精は腎臓に保管されているのでよく腎精とも言います。腎精は両親の腎精が結合して生まれます。卵子精子が受精することですね。親が壮健なら子がもらう精も生きが良くその子も健康でしょう。親の精が弱ければ生まれてきた子供も虚弱でしょう。その他いろいろな体質も精から受け継ぐことになります。受精卵は細胞がだんだんと分裂して生命活動を始めますがこれが「炎」に当たります。

 胎内から生命は成長し始め出産後も成長し続けます。ところが30くらいよりだんだんとロウソクも減り始め炎も弱くなるでしょう。ロウソクは食べ物や生活習慣、ストレス、闘病などで減りが早くなります。同窓会などで昔の同級生に会ったとき、全然変わっていない人もいたり老けた人もいたりするのは先天的な精の状態もありますが「生活」も大きく影響をします。50、60になっても子供を産ませる能力のある男性は精が充実しているのでしょうね。睾丸のことを「外腎」とも言いますが。睾丸は18歳くらいで大きくなり50を過ぎた頃から小さくなります。男性ホルモンも20~30代がピークで以後減少していきます。

 中国医学の健康法に補腎があります。腎を強くする方法ですね。腎の液は五行学説では「唾」です。修験道では唾を飲み込むそうですがそれは補腎にあたり腎精を増やす方法です。薬の方では八味地黄丸があります。

黄帝内経》では腎精の状態の変化を男女別、年齢別に説明しています。
【女性は7の倍数で身体が変化します】
七歳にして.腎氣盛に.齒更(かわ)り髮長ず.
二七にして天癸至(いたる).任脉通じ.太衝の脉盛にして.月事時を以て下る.故に子有る.
三七にして腎氣平均なり.故に眞牙(しんが)生じて長く極まる。
四七にして筋骨堅.髮長く極まり.身體盛壯なり
五七にして陽明の脉衰え.面始(はじめて)焦(あせる).髮始て墮(おつ)
六七にして三陽の脉上に衰え.面(おもて) 皆焦(あする).髮始て白し
七七にして任脉虚し.太衝の脉衰少し.天癸竭(つきて).地道(ちどう)不通(つうぜず).故に形(かたち)壞(こわれて)無子也

【男性は8の倍数で身体が変化します】
八歳にして.腎氣實.髮長じ齒更(かわる).
二八にして腎氣盛んに.天癸至る.精氣(せいき)溢(あふれ)寫(そそぎ).陰陽和(わす).故に能(よく)子有る.
三八にして腎氣平均して.筋骨勁強(けいきょう)なり.故に眞牙(しんが)生じて長く極まる.
四八、筋骨隆盛、肌肉滿壯
五八にして腎氣衰え.髮墮(おち)齒槁(かれる)
六八にして陽氣上(かみ)に衰え竭(つくし).面焦(あせ).髮鬢(はつびん)頒白(ぶんぱく)なり.
七八にして肝氣衰え.筋(きん)不能動(うごくあたわず).天癸竭(つき).精(せい)少(すくなく).腎の藏(ぞう)衰え.形體皆極まる.
八八にして則齒髮(しはつ)去(さる)

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加齢とともに男性ホルモンは減少していきます

 さて、生命活動には陰と陽が必要です。陰だけ、陽だけということはありえません。陰陽は対立しながらも量を変化させながらも平衡を保ち生命を維持していきます。
陰だけ、陽だけという状態になったのならいよいよ生命は終わりになります。
 最初に陰が身体から抜けていきます。これが「亡陰」です。熱くて粘性のある汗が出てきます。皮膚は熱く口が渇き冷たいものを飲みたがります。
 次に陽が抜けていきます。これが「亡陽」です。冷たいサラサラした汗が出てきます。皮膚は冷たくなり脈は絶えんばかりになります。亡陽のときに陽が浮いてきますので一瞬意識が戻り言葉も喋れるようになりますが、これは「仮神」といってちょうどロウソクの炎が消える時に一瞬明るくなるのと同じです。落語の死神は火が消えるところで終わっています。
 
 亡陽のときには古代では大量の人参を煎じて回陽固脱という治療法をとりました。日本では歌舞伎の鎌倉三代記、七段目「絹川村閑居の場」で三浦之助善村が独参湯(人参)で蘇生する場面があり、人参は一躍有名になりました。
 ただ急病人は人参を煎じている間に亡くなってしまう場合が多かったと思いますがそれが当時の医療の限界であったでしょう。


「死神」 三遊亭圓生