人参殺人無罪・大黄救人無功
医師の側からみれば、日本では曲直瀬道三の、李朱医学(李東垣、朱丹渓)の補う医学が主流だったのでどうしても人参は外すことができない薬物でした。
庶民の側からでは、近松門左衛門の「鎌倉三代記」で三浦之助義村が人参で生き返った場面が演じられ、人参熱に火が付き効力を盲信するようになりました。
時代劇で親の病気で人参を買うために娘が身売りをするエピソードがありますが、これは当時本当にあったことなのです。
輸入品で高価なことに加え、効力を盲信してしまった悲劇です。
中国でも一般の人たちは人参の効力を信じていました。人参殺人無罪とはそうした傾向を皮肉る言葉で、医者が誤診で患者を死なせたとしても人参を使ってもダメだったのだから仕方がないと患者の家族は諦めたということです。たぶん医者はホッとしたでしょうね。
人参は万能ではありません。ただ補気薬としての力は最高です。
大補元気・・・日本語の元気とは意味が違います。命を維持するための元の気です。この気がなければ生命は維持できず死んでしまいます。元気を補う力が強いです。
五臓の気を補う・・・腎の気を補うので精力剤としても使われていました。子供が連用すると性成長が早くなってしまい第二次性徴期が早まります。子供は飲むべきではありません。
安神益智・・・中国では受験生が飲みますが、頭脳が良くなるわけではありません。疲れた脳を回復してくれる意味です。
基本的に気が不足している気虚(体力が低下している状態)の老人、虚弱者、病み上がりで使う薬物です。体力が充実している人間が飲むべきではありません。アメリカではサプリメントとして体力が充実している人が飲み動悸、不眠が出てしまいました。(人参乱用総合症)
人参は気を補う力は最強でしかも高いので、古来、お金持ちの間ではステイタスでした。人参を使う証ではない金持ちも中医師に人参を要求しました。
困った中医師は人参を処方し最後にダイコンの種(来服子)を足しています。来服子殺人参。ダイコンの種は人参の効力を減少させます。本来は併用不可ですが、この場合はいいんでしょうね。
夜のテレビショッピングを観ていると、人参サプリが宣伝されています。
人は変わらないんだなぁ、と思います。
あ、江戸幕府は人参の種から栽培に成功しています。おかげで人参で潤っていた対馬の財政は、1674年から毎年1500~2000斤輸入されていた人参が1781年にはわずか30斤以下に減少してしまいました。対馬はもともと二万石の小さな藩でしたが人参の輸入で二十万石の藩より余裕があったのですが。今も昔も朝鮮頼りは危険です。
将軍から拝領の人参の種でしたから御種です。これで日本産人参はオタネニンジンという名前になりました。ちなみに中国では日本産人参のことを東洋人参と呼びます。